●ザリガニ釣り
 当時、ウチの近所は田んぼやら堀やらドブやら水たまりやらがヤタラメッタラあって、そこでは、たくさんの水棲生物を見つけることができました。よくタモやらよっちゃんイカやらを手に水辺に集まったものです。何故よっちゃんイカなのかというと、もちろんザリガニ釣りのエサにするためでした。

 70年代の東京といえば、光化学スモッグやらヘドロやらの公害問題がピークに達していたわけですから、近所の川なんかは当然汚れきっていました。私たちがよく行っていた水たまりなんかも、周囲ぐるりを工場からの廃棄物らしいプラスチックの固まりで埋め尽くされていました。そんなところですから生息しているのはザリガニと言っても日本の在来種ではもちろんなく、アメリカザリガニです。こいつらはホントーに水さえあればどこにでも生息していました。

 さて、水辺に集まったら道具の準備です。準備と言っても、そこいらへんのヤブでキリン草なんかの枯枝を折り取ってきて竿にし、凧糸を結んでよっちゃんいかをつけるだけで完了。あとは、目視でザリガニのいる(いそうな)場所を確認し、手前に投げ入れて誘い出します。残りのよっちゃんイカを食べながら・・・(笑)。

 食べっちゃったらエサがなくなっちゃうって思った方もいらっしゃるかと思いますが、実はザリガニ相手の場合一匹釣れればよかったりします。釣れたヤツをシッポの部分からまっぷたつにちぎり、シッポのカラを剥いて糸に縛り付ければ次のエサのできあがりです。奴等は非常に意地汚いので、エサがイカだろうが仲間の肉だろうがお構いなしというか、むしろザリガニをエサにした方がよく釣れるくらいだったりします。ちなみにシッポをちぎった残りの上半身は、持っていても仕方ないのでそのままドブに逃がして(それを逃がすと言うか)しまうのですが、どうかするとその上半身が再び釣れてしまったりして、なかなかヤな感じでした(笑)。

 ちなみに体の大きなザリガニは「マッカチン」と呼ばれ、釣ったヒトはひとときヒーロー気分を味わうことができました。釣りを楽しんだ後は、そのザリガニに数々の冒険(ネコと決闘させる、車道を横切らせる、爆竹を持たせる等々)をさせ、残った獲物は持って帰ったあげく水槽の肥やしにしたりベランダで干物にしたりしてしまいました(・・・やっぱり大人の目で見ると子供のやることってのは結構残酷)。

 そのうち中学生になった私たちは、いつとはなしにザリガニ釣りなどやらなくなっていました。そしてそんな私たちのすぐそばで、近所の水たまりは全て埋め立てられて宅地になっていきます。子供が気軽にザリガニを釣る場所などもはやありません。でも私たちは、急におおきく拡がった自分たちの新しい景色を見て周るのに忙しく、そんなことには無関心でした。それを「寂しい」ことだと認識するのは、それから遥か経ってのことです。
【おわり】